地球最期の日31 ― 2008年01月28日 21時10分51秒
第十三章
ホワイトハウスは悪辣さではフセイン前政権に優るとも劣らないバクダッド共和国政権の打倒を決した。国連はアメリカ合衆国のこの計画を全会一致で承認していた。国連が全会一致でアメリカ合衆国の計画を承認するなどは古今未曾有の出来事であった。イランでさえインドの事件を目の当たりに見ていては、なお、半信半疑ながら保険として賛成せざるを得なかった。
人類のみならず、哺乳類、爬虫類、両生類などほとんどすべての生物を絶滅しかねない陰謀を企んだ政権をこのままにしておくことはできない。それが国連の意志でもあった。
これまでアメリカ合衆国はあの砂漠の国に何度か煮え湯を飲まされていた。それは合衆国自身の拙劣な軍事計画のためでもあった。中途半端な軍事介入、兵力の逐次投入などがそれである。兵力は一気に集中的に投入しなくてはならない。ゲリラに悩まされているのも、民間人の中に紛れるゲリラの武装解除ができていないからである。アメリカ合衆国は同盟諸国とともにその持てる兵力の全力を一気に投入、首都バクダッドを落とすと同時に、バクダッド共和国内の全地域に渡る民間レベルの武装解除を行なう大軍事計画を立てた。これには同盟国の協力は必須であった。
アメリカ合衆国第七艦隊は事実上の母港横須賀を出港、既にペルシャ湾口に近づきつつあった。同盟国トルコ・インジルリックNATO空軍基地、ドイツ・ライン・マイン米空軍基地、イタリア・アビアノNATO空軍基地からは空対地ステルス巡航ミサイルJASSMを搭載した空軍機がバクダッド共和国めざして飛び立った。首都バクダッドは、南北から、そして空と海から、空を覆ういなごの大群のように押し寄せてくる巡航ミサイルに見舞われることになる。この攻撃が終了したあとには、バクダッド共和国の砂漠には、一千億円ものミサイルの残骸が山積みになるだろう。バクダッドの陸上兵力を、これら精密測位GPSチップを装備する巡航ミサイルでピンポイント攻撃し、完膚無きまでに叩いた後、トルコ、クエート、サウジアラビアから多国籍地上部隊が進攻する。
その日の未明、南北の陸上基地、航空母艦、更に上空の戦闘機から発射された超精密誘導型巡航ミサイルの群は一斉にバクダッド共和国内の政府官邸、軍事基地に襲い掛かった。バクダッド共和国は闘わずして陥落した。この国の独裁者は口先ばかりの連中なのだ。巡航ミサイルによる攻撃が終わるや、トルコ、クエート、サウジアラビアから機甲化地上部隊が進攻していった。半日の攻撃でバクダッド共和国全土は制圧された。
多国籍軍が行わなければならないことは、何をおいてもまず検疫であった。機甲化地上部隊と共に進駐してきた輜重部隊はDNAチップをも大量に運び込んでいた。バクダッド共和国内の各地で、直ちに、DNAチップによるエボラ大腸菌の汚染程度が調べられた。予測されたことであるが、この国自身も全土に渡って汚染されていた。天に向って唾するとはこのことである。
直ちにシロップ状にされたバクテリオ・ファージの投与が始まった。空からの散布も、錠剤の配布もこの国では行なわれない。指定された多国籍軍キャンプに身分証明を持参して現れた者だけにシロップがその場で投与される。持ち帰ることはできない。ただし、女子と子供は身分証明の有無に拘わらず投与が許可された。これはゲリラを炙り出す作戦である。
一ヵ月後、エボラ出血熱で血まみれになって死ぬか、あるいは、多国籍軍に投降するか二つに一つの選択であった。アメリカは当然、このシロップの効果の仕組みを極秘にしていた。バクテリオ・ファージであることが知られれば、それに積極的に感染して助かる道が開けるからである。シロップを飲んだ人間の唾液でも舐めればバクテリオ・ファージに感染することができる。これは絶対に知られてはならなかった。選択肢は他にないと思わせることが、この作戦が有効になる必須条件であるからだ。
だから、この砂漠の国では、バクテリオ・ファージの空中散布も行わない。エボラ出血熱の恐怖は、毎日テレビ映像として放映された。もし、シロップの投与を受けなければ、一ヵ月後、エボラが発症する。命知らずの連中といえども無駄に死ぬことを欲しなかった。爆弾を抱いて自爆テロを行なえるのは、命のあるあと一ヵ月の間だけである。その間にテロを行なうか、無為にエボラに食い苛まれるか、それとも投降するか。テロを行なおうにも同盟軍の守りはあまりに強固であった。期限のある防備は楽である。誰何を無視して突っ込んでくる人間、車は無条件で攻撃せよと命令が下っていた。一般の市民は、今回、自分達の命をも奪ったであろう暴挙に憤慨していた。テロは起きなかった。
一ヶ月が経った。世界のどこにもエボラ出血熱発生の情報は無かった。無事に危機を乗り切ったのだ。
サブウ首相、ハルブ参謀長を始めとするバクダッド共和国首脳はついに現れなかった。巡航ミサイル攻撃で死んだか、あるいは、どこかの地下壕で自分達の作ったエボラによって血にまみれて野たれ死んだと思われた。
新生バクダッドにもようやく平和が訪れた。
地球最期の日 了
ホワイトハウスは悪辣さではフセイン前政権に優るとも劣らないバクダッド共和国政権の打倒を決した。国連はアメリカ合衆国のこの計画を全会一致で承認していた。国連が全会一致でアメリカ合衆国の計画を承認するなどは古今未曾有の出来事であった。イランでさえインドの事件を目の当たりに見ていては、なお、半信半疑ながら保険として賛成せざるを得なかった。
人類のみならず、哺乳類、爬虫類、両生類などほとんどすべての生物を絶滅しかねない陰謀を企んだ政権をこのままにしておくことはできない。それが国連の意志でもあった。
これまでアメリカ合衆国はあの砂漠の国に何度か煮え湯を飲まされていた。それは合衆国自身の拙劣な軍事計画のためでもあった。中途半端な軍事介入、兵力の逐次投入などがそれである。兵力は一気に集中的に投入しなくてはならない。ゲリラに悩まされているのも、民間人の中に紛れるゲリラの武装解除ができていないからである。アメリカ合衆国は同盟諸国とともにその持てる兵力の全力を一気に投入、首都バクダッドを落とすと同時に、バクダッド共和国内の全地域に渡る民間レベルの武装解除を行なう大軍事計画を立てた。これには同盟国の協力は必須であった。
アメリカ合衆国第七艦隊は事実上の母港横須賀を出港、既にペルシャ湾口に近づきつつあった。同盟国トルコ・インジルリックNATO空軍基地、ドイツ・ライン・マイン米空軍基地、イタリア・アビアノNATO空軍基地からは空対地ステルス巡航ミサイルJASSMを搭載した空軍機がバクダッド共和国めざして飛び立った。首都バクダッドは、南北から、そして空と海から、空を覆ういなごの大群のように押し寄せてくる巡航ミサイルに見舞われることになる。この攻撃が終了したあとには、バクダッド共和国の砂漠には、一千億円ものミサイルの残骸が山積みになるだろう。バクダッドの陸上兵力を、これら精密測位GPSチップを装備する巡航ミサイルでピンポイント攻撃し、完膚無きまでに叩いた後、トルコ、クエート、サウジアラビアから多国籍地上部隊が進攻する。
その日の未明、南北の陸上基地、航空母艦、更に上空の戦闘機から発射された超精密誘導型巡航ミサイルの群は一斉にバクダッド共和国内の政府官邸、軍事基地に襲い掛かった。バクダッド共和国は闘わずして陥落した。この国の独裁者は口先ばかりの連中なのだ。巡航ミサイルによる攻撃が終わるや、トルコ、クエート、サウジアラビアから機甲化地上部隊が進攻していった。半日の攻撃でバクダッド共和国全土は制圧された。
多国籍軍が行わなければならないことは、何をおいてもまず検疫であった。機甲化地上部隊と共に進駐してきた輜重部隊はDNAチップをも大量に運び込んでいた。バクダッド共和国内の各地で、直ちに、DNAチップによるエボラ大腸菌の汚染程度が調べられた。予測されたことであるが、この国自身も全土に渡って汚染されていた。天に向って唾するとはこのことである。
直ちにシロップ状にされたバクテリオ・ファージの投与が始まった。空からの散布も、錠剤の配布もこの国では行なわれない。指定された多国籍軍キャンプに身分証明を持参して現れた者だけにシロップがその場で投与される。持ち帰ることはできない。ただし、女子と子供は身分証明の有無に拘わらず投与が許可された。これはゲリラを炙り出す作戦である。
一ヵ月後、エボラ出血熱で血まみれになって死ぬか、あるいは、多国籍軍に投降するか二つに一つの選択であった。アメリカは当然、このシロップの効果の仕組みを極秘にしていた。バクテリオ・ファージであることが知られれば、それに積極的に感染して助かる道が開けるからである。シロップを飲んだ人間の唾液でも舐めればバクテリオ・ファージに感染することができる。これは絶対に知られてはならなかった。選択肢は他にないと思わせることが、この作戦が有効になる必須条件であるからだ。
だから、この砂漠の国では、バクテリオ・ファージの空中散布も行わない。エボラ出血熱の恐怖は、毎日テレビ映像として放映された。もし、シロップの投与を受けなければ、一ヵ月後、エボラが発症する。命知らずの連中といえども無駄に死ぬことを欲しなかった。爆弾を抱いて自爆テロを行なえるのは、命のあるあと一ヵ月の間だけである。その間にテロを行なうか、無為にエボラに食い苛まれるか、それとも投降するか。テロを行なおうにも同盟軍の守りはあまりに強固であった。期限のある防備は楽である。誰何を無視して突っ込んでくる人間、車は無条件で攻撃せよと命令が下っていた。一般の市民は、今回、自分達の命をも奪ったであろう暴挙に憤慨していた。テロは起きなかった。
一ヶ月が経った。世界のどこにもエボラ出血熱発生の情報は無かった。無事に危機を乗り切ったのだ。
サブウ首相、ハルブ参謀長を始めとするバクダッド共和国首脳はついに現れなかった。巡航ミサイル攻撃で死んだか、あるいは、どこかの地下壕で自分達の作ったエボラによって血にまみれて野たれ死んだと思われた。
新生バクダッドにもようやく平和が訪れた。
地球最期の日 了
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