地球最期の日20 ― 2008年01月05日 20時45分35秒
伊丹空港待合室
午後の物憂い時刻が過ぎた頃、京泉の携帯電話が鳴った。プライベートな電話だ。ビジネスの電話は、隣の部屋にいる秘書が固定電話で受ける。必要な電話ならそれを転送してくる。ゴルフ会員権の売り込みのような電話は彼女がうまくこなして断ってくれる。携帯の番号はほんの一部の親しい者にしか教えていない。もし、京泉の外出中に秘書に緊急な電話がかかってきても秘書は決して相手に携帯の番号は教えない。相手の名前と番号を京泉に取り次ぐだけだ。それに答えることが必要だと京泉が判断すれば、京泉から改めて相手に電話をかける。原稿催促の電話なら無視する。もっとも、京泉が原稿の締め切りに遅れるということはほとんどなかったが。恩師に依頼のような命令で引き受けさせられた原稿はワシントンDCからの帰りのフライトの中で無事書き上げていた。こんどのような重大事の中でも彼は全力を尽くして約束は守る男なのだ。
「はい、京泉です」
京泉は携帯電話に出た。
「祐介、私。リュドミラよ」
「リュドミラ!来てくれることになったね。今朝イーサンからOKの返事がきていたよ。いつ出発してくれるんだい?」
「もう来てるの。今、成田よ」
「ええ?もう来てるのかい?」
「そう、これから国内線にトランスファするの。私、これからどうしたらいい?」
「トランスファかい、じゃ伊丹に着くね?」
「ええ、伊丹。十八時十五分着よ」
「分かった、リュドミラ。僕は、アライバルのロビーで待っているからね。僕もこれから伊丹に行くよ。伊丹の到着ロビーだよ。いいね」
「分かったわ。待ってて下さるのね」
「うん。もし、万が一、僕が遅れても、動くんじゃないよ。そこで待ってるんだよ。小さなロビーだから、すぐわかるからね」
「ええ。分かったわ」
「じゃ、電話切るからね」
「はい、じゃ伊丹でね」
京泉は電話をポケットに入れ、パソコンをシャットダウンする。これが起動と同じで何をしているのか知らないがやたらと遅いのだ。シャットダウンすれば自動的に電源も切れるからと、一度そのまま外出して翌朝出勤してきたら、シャットダウンの途中で固まって電源が入ったままだったという苦い経験をした。それ以来、京泉は確実に電源が切れるまで忍耐強く待っている。いらいらしながら待ち、ようやく電源が落ちると、すぐに席を立った。シャットダウンを面倒がっていきなりスイッチで電源を切ると、次に電源を入れたとき、運が悪ければ数十分も待たされるという非常に不幸な目にも遭う。まったく、パソコンなんてまともな技術ではないのだ。
京泉はスイーツの連絡ドアから顔を出し、隣の部屋の秘書に声をかける。
「北沢さん、僕、ちょっと出てくるからね。今日は戻らないから、もう帰ってもいいですよ」
「はい。わかりました。行ってらっしゃいませ」
北沢左也佳は立ち上がって京泉を送り出した。
京泉は部屋を出ると階段を駆け下りた。農学部の門を出る。このキャンパスには理学部もあって、その上、今出川通りに面した門の傍の建物はみな理学部なのに、なぜかバス停は「農学部前」だ。
その農学部前にある今出川通りを横断し反対の工学部側に渡り、タクシーを待つ。これが四条河原町に行く最も早い方法なのだ。京大の前のバス停でバスなど待っていたら日が暮れる。公共交通機関に見放されているようなところに京大本部はあった。大学横には、三高寮歌で「都の春に嘯けば 月こそかかれ吉田山」と歌われた吉田山があり、少し歩けば銀閣寺という観光名所があるのだが、交通の便は悪い。とはいえ、京大に限らず、京都はどこも交通の便はよくない。タクシーはすぐつかまった。
「四条河原町。阪急の前ね」
伊丹に行くには四条河原町に出て阪急電車に乗る。今出川通りから河原町通りに入り、南下した。お池あたりにくると渋滞して動きが遅くなった。京泉は三条でタクシーを降りて歩くことにした。乗っていてもかかる時間は同じかもしれないがイライラするより動いていた方がいい。成田から伊丹に来るより、京都から伊丹に行く方が下手をすると時間がかかる。
京泉は阪急河原町で特急に乗った。ここからどの経路で行こうかと悩んだ。素直な経路は阪急京都本線を南茨木で降り、伊丹空港行き大阪モノレールに乗り換える道だ。南茨木は距離的には近いのだが、特急が止まらないので不便で乗り換えに時間もかかる。モノレールがまたのろくて空港まで三十分近くもかかるのである。だから、南茨木を乗り越して、十三経由で宝塚線の蛍池に出ようか、阪急伊丹に出てタクシーを走らせようかといろいろ考えた。が、結局、一番素直な方法にした。どの道、河原町から一時間以上かかるのだ。元気のいい学生なら、蛍池に出て空港までの一キロを走って交通費を浮かせるという手もあるのだが。
それでも何とかリュドミラの乗った飛行機よりは早く伊丹に着くことができた。しばらく広くもない到着ロビーで待っていると、やがて乗客の群れが一団となって出口から出て来た。リュドミラがいない。きっとバゲッジ・クレームでスーツケースを待っているのだろう。これは時間がかかりそうだ、と思っていたら、一団のすぐ後からリュドミラも出てきた。肩にショルダーバッグを、右手に機内持込のキャスター付きバッグを引いている。サンフランシスコの時のように沢山の衣装を持ってきたかと思っていたが、意外に軽装だ。飛び出して来たことがわかった。
リュドミラもすぐに京泉を認めて、バッグを引きずりながら駆け寄ってきた。嬉しそうな笑顔だ。
「やあ。びっくりしたよ。イーサンからOKといってきたその日じゃない。こんな早く来られるなんて」
リュドミラはいたずらっぽく笑っていた。
「イーサン所長からね、ケリーに電話があった時、私、その場にいたのよ。やりとりを聞いていたらあなたが私に来てほしがっているということがわかったの。それで、ケリーが返事する前に飛び出して、すぐ空港に行ったのよ。帰ったら叱られるかもしれないわ」
「イーサンがOK出しているからいいんじゃないかな。大丈夫だよ。でも、どうしてそんな無茶したの?」
「だって、あなたに早く会いたかったの、祐介。迷惑?」
リュドミラは心配そうに言った。
「迷惑なんかであるはずないじゃないか。僕だって、君に会いたくて仕方がなかったんだよ」
「それで呼んでくれたの?」
「大きな声じゃいえないけどね。でも、明日からは手伝ってもらうよ。ちょっと大変なんだ。うちの若い者には言えないから僕一人でやってたからね」
「はい。なんなりと、お手伝いさせていただきます」
二人は顔を見合わせて微笑んだ。
「行こうか」
京泉はリュドミラのショルダーバッグを取り上げ、左肩にひっかけた。リュドミラは京泉の右腕に自分の左腕を絡めた。二人は歩き始めた。
「ホテルはどこなの?」
「とってないの。すぐ出てきちゃったから」
「そうか。それでバッグが小さいんだ。そうだろうとは思ったけどね。着替えもあまり持って来てないんだね」
「着替えって?」
「ほら、サンフランシスコじゃ、毎日着替えてたじゃないか」
「そりゃ、女性ですもの。でも、今回は荷造りしている暇なかったから、あまり持って来てないわ。こちらで買うわね」
「はいはい、好きにしてください。お姫様」
「いやな人」
リュドミラはすねたように言いながら左肩で京泉胸の横を押した。
「それで、ホテルはね、いいよ、とらなくて。僕のフラットに来るかい?部屋は余ってるから」
「マンション」なんていったら、一万坪の豪邸に住んでいるかと間違われる。チュドミラがお姫様なら、京泉はどこかの領主かと思われてしまう。4LDKの兎小屋をマンションなんて英語で呼ぶのは日本くらいの物だ。
「本当にいいの?お邪魔じゃない?」
「何言ってるんだい。君が邪魔なはずないじゃないか。そのまま一生居てくれてもいいんだよ」
これはプロポーズだった。リュドミラもすぐそれに気付いた。
「そんなこと言うと、本気にするわよ」
京泉は立ち止まった。
「リュドミラ、僕は本気だよ。君さえよければ、もう帰らないで欲しい」
リュドミラも立ち止まった。京泉の方を向いて彼を見上げる。そして、そっと頷いた。空港の中で二人だけの婚約が思いもかけず成立した。
京泉はそれまでリュドミラが絡めていた右腕をほどくと、彼女を胸の中に抱き抱えた。リュドミラは京泉の腰に手を回した。
「行こうか」
二人は再び歩き出した。ここがシャルル・ド・ゴール空港なら、郷に入れば郷に従えで、京泉もリュドミラを抱きしめて接吻を交わすことを躊躇わなかっただろうが、残念なことにここは日本だ。おまけに物見高い大阪人のうろつく土地だ。そんな危ないことはできなかった。
「リュドミラ、疲れてるんじゃない?ワシントンDCから帰ってくると、僕なんかグタグタだよ」
「ええ。少し。でも、あなたに会えて疲れもふっとんだわ」
「夕食はどうする?どこかで食べていこうか?」
「あまり食欲はないわ。機内で、ずっと食べ通しだもの。でもあなたはどうするの?」
「僕は、大丈夫だよ。冷蔵庫に何かあるから」
「いけないわ、そんなの。ちゃんとしたもの食べないと」
リュドミラはもうすっかり女房気分だ。世話を焼くことが好きなのだ。
「はいはい、奥様、君の言うことには逆らいません」
「そうよ。私の言うことはちゃんと聞くのよ。どこかで食べましょ」
二人は出発ロビーに上がり空港内のレストランに入った。それが一番簡単で疲れているであろうリュドミラを歩かせなくてすむ方法だった。
午後の物憂い時刻が過ぎた頃、京泉の携帯電話が鳴った。プライベートな電話だ。ビジネスの電話は、隣の部屋にいる秘書が固定電話で受ける。必要な電話ならそれを転送してくる。ゴルフ会員権の売り込みのような電話は彼女がうまくこなして断ってくれる。携帯の番号はほんの一部の親しい者にしか教えていない。もし、京泉の外出中に秘書に緊急な電話がかかってきても秘書は決して相手に携帯の番号は教えない。相手の名前と番号を京泉に取り次ぐだけだ。それに答えることが必要だと京泉が判断すれば、京泉から改めて相手に電話をかける。原稿催促の電話なら無視する。もっとも、京泉が原稿の締め切りに遅れるということはほとんどなかったが。恩師に依頼のような命令で引き受けさせられた原稿はワシントンDCからの帰りのフライトの中で無事書き上げていた。こんどのような重大事の中でも彼は全力を尽くして約束は守る男なのだ。
「はい、京泉です」
京泉は携帯電話に出た。
「祐介、私。リュドミラよ」
「リュドミラ!来てくれることになったね。今朝イーサンからOKの返事がきていたよ。いつ出発してくれるんだい?」
「もう来てるの。今、成田よ」
「ええ?もう来てるのかい?」
「そう、これから国内線にトランスファするの。私、これからどうしたらいい?」
「トランスファかい、じゃ伊丹に着くね?」
「ええ、伊丹。十八時十五分着よ」
「分かった、リュドミラ。僕は、アライバルのロビーで待っているからね。僕もこれから伊丹に行くよ。伊丹の到着ロビーだよ。いいね」
「分かったわ。待ってて下さるのね」
「うん。もし、万が一、僕が遅れても、動くんじゃないよ。そこで待ってるんだよ。小さなロビーだから、すぐわかるからね」
「ええ。分かったわ」
「じゃ、電話切るからね」
「はい、じゃ伊丹でね」
京泉は電話をポケットに入れ、パソコンをシャットダウンする。これが起動と同じで何をしているのか知らないがやたらと遅いのだ。シャットダウンすれば自動的に電源も切れるからと、一度そのまま外出して翌朝出勤してきたら、シャットダウンの途中で固まって電源が入ったままだったという苦い経験をした。それ以来、京泉は確実に電源が切れるまで忍耐強く待っている。いらいらしながら待ち、ようやく電源が落ちると、すぐに席を立った。シャットダウンを面倒がっていきなりスイッチで電源を切ると、次に電源を入れたとき、運が悪ければ数十分も待たされるという非常に不幸な目にも遭う。まったく、パソコンなんてまともな技術ではないのだ。
京泉はスイーツの連絡ドアから顔を出し、隣の部屋の秘書に声をかける。
「北沢さん、僕、ちょっと出てくるからね。今日は戻らないから、もう帰ってもいいですよ」
「はい。わかりました。行ってらっしゃいませ」
北沢左也佳は立ち上がって京泉を送り出した。
京泉は部屋を出ると階段を駆け下りた。農学部の門を出る。このキャンパスには理学部もあって、その上、今出川通りに面した門の傍の建物はみな理学部なのに、なぜかバス停は「農学部前」だ。
その農学部前にある今出川通りを横断し反対の工学部側に渡り、タクシーを待つ。これが四条河原町に行く最も早い方法なのだ。京大の前のバス停でバスなど待っていたら日が暮れる。公共交通機関に見放されているようなところに京大本部はあった。大学横には、三高寮歌で「都の春に嘯けば 月こそかかれ吉田山」と歌われた吉田山があり、少し歩けば銀閣寺という観光名所があるのだが、交通の便は悪い。とはいえ、京大に限らず、京都はどこも交通の便はよくない。タクシーはすぐつかまった。
「四条河原町。阪急の前ね」
伊丹に行くには四条河原町に出て阪急電車に乗る。今出川通りから河原町通りに入り、南下した。お池あたりにくると渋滞して動きが遅くなった。京泉は三条でタクシーを降りて歩くことにした。乗っていてもかかる時間は同じかもしれないがイライラするより動いていた方がいい。成田から伊丹に来るより、京都から伊丹に行く方が下手をすると時間がかかる。
京泉は阪急河原町で特急に乗った。ここからどの経路で行こうかと悩んだ。素直な経路は阪急京都本線を南茨木で降り、伊丹空港行き大阪モノレールに乗り換える道だ。南茨木は距離的には近いのだが、特急が止まらないので不便で乗り換えに時間もかかる。モノレールがまたのろくて空港まで三十分近くもかかるのである。だから、南茨木を乗り越して、十三経由で宝塚線の蛍池に出ようか、阪急伊丹に出てタクシーを走らせようかといろいろ考えた。が、結局、一番素直な方法にした。どの道、河原町から一時間以上かかるのだ。元気のいい学生なら、蛍池に出て空港までの一キロを走って交通費を浮かせるという手もあるのだが。
それでも何とかリュドミラの乗った飛行機よりは早く伊丹に着くことができた。しばらく広くもない到着ロビーで待っていると、やがて乗客の群れが一団となって出口から出て来た。リュドミラがいない。きっとバゲッジ・クレームでスーツケースを待っているのだろう。これは時間がかかりそうだ、と思っていたら、一団のすぐ後からリュドミラも出てきた。肩にショルダーバッグを、右手に機内持込のキャスター付きバッグを引いている。サンフランシスコの時のように沢山の衣装を持ってきたかと思っていたが、意外に軽装だ。飛び出して来たことがわかった。
リュドミラもすぐに京泉を認めて、バッグを引きずりながら駆け寄ってきた。嬉しそうな笑顔だ。
「やあ。びっくりしたよ。イーサンからOKといってきたその日じゃない。こんな早く来られるなんて」
リュドミラはいたずらっぽく笑っていた。
「イーサン所長からね、ケリーに電話があった時、私、その場にいたのよ。やりとりを聞いていたらあなたが私に来てほしがっているということがわかったの。それで、ケリーが返事する前に飛び出して、すぐ空港に行ったのよ。帰ったら叱られるかもしれないわ」
「イーサンがOK出しているからいいんじゃないかな。大丈夫だよ。でも、どうしてそんな無茶したの?」
「だって、あなたに早く会いたかったの、祐介。迷惑?」
リュドミラは心配そうに言った。
「迷惑なんかであるはずないじゃないか。僕だって、君に会いたくて仕方がなかったんだよ」
「それで呼んでくれたの?」
「大きな声じゃいえないけどね。でも、明日からは手伝ってもらうよ。ちょっと大変なんだ。うちの若い者には言えないから僕一人でやってたからね」
「はい。なんなりと、お手伝いさせていただきます」
二人は顔を見合わせて微笑んだ。
「行こうか」
京泉はリュドミラのショルダーバッグを取り上げ、左肩にひっかけた。リュドミラは京泉の右腕に自分の左腕を絡めた。二人は歩き始めた。
「ホテルはどこなの?」
「とってないの。すぐ出てきちゃったから」
「そうか。それでバッグが小さいんだ。そうだろうとは思ったけどね。着替えもあまり持って来てないんだね」
「着替えって?」
「ほら、サンフランシスコじゃ、毎日着替えてたじゃないか」
「そりゃ、女性ですもの。でも、今回は荷造りしている暇なかったから、あまり持って来てないわ。こちらで買うわね」
「はいはい、好きにしてください。お姫様」
「いやな人」
リュドミラはすねたように言いながら左肩で京泉胸の横を押した。
「それで、ホテルはね、いいよ、とらなくて。僕のフラットに来るかい?部屋は余ってるから」
「マンション」なんていったら、一万坪の豪邸に住んでいるかと間違われる。チュドミラがお姫様なら、京泉はどこかの領主かと思われてしまう。4LDKの兎小屋をマンションなんて英語で呼ぶのは日本くらいの物だ。
「本当にいいの?お邪魔じゃない?」
「何言ってるんだい。君が邪魔なはずないじゃないか。そのまま一生居てくれてもいいんだよ」
これはプロポーズだった。リュドミラもすぐそれに気付いた。
「そんなこと言うと、本気にするわよ」
京泉は立ち止まった。
「リュドミラ、僕は本気だよ。君さえよければ、もう帰らないで欲しい」
リュドミラも立ち止まった。京泉の方を向いて彼を見上げる。そして、そっと頷いた。空港の中で二人だけの婚約が思いもかけず成立した。
京泉はそれまでリュドミラが絡めていた右腕をほどくと、彼女を胸の中に抱き抱えた。リュドミラは京泉の腰に手を回した。
「行こうか」
二人は再び歩き出した。ここがシャルル・ド・ゴール空港なら、郷に入れば郷に従えで、京泉もリュドミラを抱きしめて接吻を交わすことを躊躇わなかっただろうが、残念なことにここは日本だ。おまけに物見高い大阪人のうろつく土地だ。そんな危ないことはできなかった。
「リュドミラ、疲れてるんじゃない?ワシントンDCから帰ってくると、僕なんかグタグタだよ」
「ええ。少し。でも、あなたに会えて疲れもふっとんだわ」
「夕食はどうする?どこかで食べていこうか?」
「あまり食欲はないわ。機内で、ずっと食べ通しだもの。でもあなたはどうするの?」
「僕は、大丈夫だよ。冷蔵庫に何かあるから」
「いけないわ、そんなの。ちゃんとしたもの食べないと」
リュドミラはもうすっかり女房気分だ。世話を焼くことが好きなのだ。
「はいはい、奥様、君の言うことには逆らいません」
「そうよ。私の言うことはちゃんと聞くのよ。どこかで食べましょ」
二人は出発ロビーに上がり空港内のレストランに入った。それが一番簡単で疲れているであろうリュドミラを歩かせなくてすむ方法だった。
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